100億円 or 100年

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 みなさまは「成功」と聞いてどのようなイメージを持たれますか。南の島でバカンス、ポルシェ、別荘、ファーストクラス、著名人との付き合い、銀座、華やか……私を含め多くの人には縁のないものばかりです。

 私たちが一般的に思い浮かべる成功の状態とは、競争原理に基づいて勝ち取った経済的なものや地位です。当たり前ですが経営者、特に創業者にはこの成功を追い求める人が多いものです。

 多くの経営者と接してきて思うことは、成功して一見幸福そうに見えていても実は幸福ではないという人がたくさんいるということです。多少華やいだ世界ですべてが順調のようでいても、胃潰瘍を患う、家庭を犠牲にして家族関係がおかしくなる、業績は上がったが振り返ると慕ってくる社員がいない。

 社会的成功だけを目指していると、幸せとは正反対の状態になりがちです。経済的には満たされていても、息子には事業を継がせたくはないという経営者は少なくありません。

 反対に、社会的にはパッとしていなくても、ご本人は本当に幸せだと感じている人もいます。残業するよりも、早く家に帰って家族と楽しく過ごし、精神的に穏やかで充実した人生を送っている幸せ感満載の人たちです。そんな人ばかりでは日本の行く末は案じられますが、だからと言ってその人が人生の落伍者ということはありません。

 私は聞いたことがありませんが、給料は少なくても心穏やかに暮らしたいという社員ばかりが集まったらどんな会社ができるでしょうか。そんな社会的成功を放棄して人間的成功だけを目指した経営は、ほぼ宗教団体と同じ状態ですからそれはそれで最高の幸せ感に浸ることができるのかもしれません。まあ、私には絶対に無理ですけれども。

 中小零細企業は規模の拡大ばかりを目指すのではなく、永く続けられる企業を目指すのがいいのではないでしょうか。規模の拡大を追求すると払う犠牲やリスクも多くなるのです。つまり、100億円企業ではなく100年企業こそが普通の中小企業経営者が目指す道なのです。

 業界№1、地域一番店といった社会的成功を目指しつつ、家族や従業員など愛する人たちをどのように幸せにするかという人間的成功も大切にする。経営者に必要なのはそのバランス感覚なのではないでしょうか。