立派な字を書く人に「字が上手ですね」と言うと、その人からは確実に「とんでもございません」と返ってきます。字が上手な人ほど一文字一文字を大切にします。
同じく、人徳のある人に限って「まだまだ自分なんて」と本人は人徳の足りなさを気にするものです。確かに足りなさを一番知っているのは自分自身なのかもしれません。
字が上手な人ほど字を大切にする。徳のある人ほど徳を大切にする。ツイている人ほどツキを大切にする。勉強のできる人ほど勉強を大切にする。お金のある人ほどお金を大切にする。既に持っている人ほどそのことを大切にするので、ますます増える。結果、いい循環が起こる。
本来なら、徳のない人ほど徳を、ツイていない人ほどツキを、勉強のできない人ほど勉強を大切にしたほうがいいのです。結果が出ていないのならそれらを大切にすればいいのに、結果を出している人の方が大切にしているからなお差が開いてしまいます。
どうやら人間は自分の弱いところについては目をそらす傾向があるようです。気付いても気付かないふりをしてしまう。場合によっては、その大切さを理解できていながらも、自己を正当化してしまう人もいます。認知不協和理論というやつです。
例えば、タバコをたくさん吸う人は、たばこが身体に害を及ぼすことは百も承知の筈です。このタバコを吸っているという認知と、タバコは身体に悪いという認知、二つの間には矛盾があります。すると精神的には不愉快な気分になります。この不愉快な気分が認知的不協和です。
この不愉快な状態を回避するにはタバコを止めたらいいのですが、それは簡単なことではありません。すると人は、変えやすい方を変えてしまうのです。つまり、「タバコは身体に害がない」と認知を変えてしまえばいいのです。
「喫煙とガンとの因果関係は証明されていない」とか「気分転換になる」、「金さん銀さんも100歳超えてタバコを吸っていた」などと、情報を歪めたり自分にとって有利になる情報を集めたりすることで、二つの認知の間の矛盾を低減してしまうのです。
字が下手でも出世している人はたくさんいる。人徳がなくても成功している人がいる。中卒でも総理大臣になった人もいる……終いには訳の分からない屁理屈を並べる人たちもいます。
みなさまにも、分かっているけれど目をそらしていることはありませんか。私にももちろんあります。思いと行動とは矛盾だらけです。まだまだ成長できる余地がたくさんあるってことですね。