会社の重要な経営指標の一つに労働分配率があります。これは企業が生み出した付加価値(製造業以外は粗利益と考えてください)に占める人件費の割合です。この労働分配率は経営指標としては低い方がよいのです。ただし社員にとっては労働分配率の高低は待遇と直接的には関係ありません。
たとえば下記のような年間付加価値額が10億円の4つの会社があったとします。ここでは人件費以外の一切の経費は無視します。
付加価値 | 人件費 | 労働分配率 | 社員数 | 一人当たり人件費 | 一人当たり生産性 | |
A社 | 10億円 | 4億円 | 40% | 50人 | 800万円 | 2000万円 |
B社 | 100人 | 400万円 | 1000万円 | |||
C社 | 6億円 | 60% | 50人 | 1200万円 | 2000万円 | |
D社 | 100人 | 600万円 | 1000万円 |
社員にとっての喜ばしい会社は、一人当たり人件費が高いC社→A社→D社→B社の順になります。一人当たりの給料はその会社の給与水準を表しますから、これが高いことに文句のある社員はいません。
一方、企業経営においては労働分配率が低いA社、B社の方がC社、D社よりいい会社となります。これに生産性を考慮すると、会社にとって望ましい姿はA社→B社→C社→D社となります。
しかし、ここで注目すべきは労働生産性です。これは社員一人当たりが稼ぎ出した付加価値額を示す指標であり高い方が望ましいとされています。労働分配率が同じ会社同士を比較すると、一人当たりの生産性が高い会社の給与水準は 必ず高くなりますから、一人当たりの生産性は労使共通の課題であるのです。
その反面、一人当たりの生産性があまりに高いA社やC社のような会社は注意が必要です。高い生産性が、他社にはない優位性を持った製品や特殊技術によって差別化を図った結果もたらされるものでしたらいいのですが、社員に大きな負荷をかけた結果ようやく維持できる生産性でしたら、いずれどこかに歪みが出てこないとも限らないからです。
一般にライバル会社がある中では、突出した品質やサービスがない限り価格も給料も倍の開きが出ることはありません。仮に大きな開きが出たとしても、やがては落ち着くべきところに落ち着くものなのです。
※「その企業の給与水準は社会が決めるのです」……松下幸之助氏