自筆証書遺言について新しい制度が始まります

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吉田

 最近、遺言書作成に関するご相談が特に増えており、令和2年7月10日より「自筆証書遺言書保管制度」が全国の法務局で開始しましたので遺言の制度についてご紹介致します。

 出生数、死亡者数、公正証書作成件数、遺言書検認数について推移を表にしてみました。表の数値より少子化、相続発生件数の増加、遺言書に係る数値の増加が分かります。

昭和60年 平成20年 平成25年 平成30年
出生数 1,431,577 1,091,156 1,029,817 918,400
死亡者数 752,283 1,142,407 1,268,438 1,362,470
公正証書作成件数 41,904 76,436 96,020 110,471
遺言書検認数 3,301 13,632 16,708 17,487

※出生数・死亡者数は人口動態統計参照、公正証書遺言の作成件数は日本公証人連合会の公表値参照、遺言書検認数は司法統計参照
※自筆証書遺言については、家庭裁判所での検認数であり作成件数は明らかではない

 遺言書の検認とは、遺言書(「公正証書遺言」及び後で説明する「法務局保管の自筆証書遺言」を除く)を家庭裁判所に提出をして相続人等の立会いの上開封し相続人らに遺言書の存在及び内容を明確にする制度になります。封がある自筆証書を検認せずに開封した場合は5万円以下の過料が科せられることもあります。

 遺言書にはいくつかの種類がありますが、一般的に利用される「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の概略は次の通りになります。

公正証書遺言 自筆証書遺言
概要 公証人役場(病院等への出張もできます)で、2名の証人の前で遺言内容を公証人に申し述べ、公証人が遺言書を作成します。 自筆証書遺言を作成し、日付、氏名を記入の上、押印する。
メリット
  • 公文書として、強力な効力をもつ
  • 家庭裁判所での検認手続が不要
  • 死後すぐに遺言内容を実行できる
  • 原本は公証役場で保管されるため、
    紛失・変造の心配がない
  • 手軽でいつでも書ける。
  • 費用がかからない
  • 誰にも知られずに作成できる
デメリット
  • 証人が必要
    ※成年であることが必要で、推定相続人やその配偶者及び直系血族等はなれない
  • 費用がかかる
  • 不明確な内容になりがち
  • 形式の不備で無効になることがある
  • 紛失や偽造、変造、隠匿の恐れがある
  • 家庭裁判所での検認手続きが必要

自筆証書遺言に係る改正

1.自筆証書遺言の方式緩和

 従来は「自筆証書遺言」は遺言の全文を遺言者の自筆であることが要件でしたが、平成31年1月13日より財産目録のみについては、自筆でないものについてもよいこととされました。財産目録には形式に特段の定めはされておらず、パソコンによる作成や土地については登記事項証明書を財産目録として添付することや、預貯金については通帳の写しを添付することもできます。いずれの場合も,財産目録の各頁に署名押印する必要がありますので,注意してください。

詳細は法務省HP「自筆証書遺言に関するルールが変わります」をご確認ください。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00240.html

2.自筆証書遺言保管制度の創設

 自筆証書遺言のさらなる利用拡大を狙い、指定された法務局で自筆証書遺言を保管する制度が令和2年7月10日から始まります。

自筆証書遺言書保管制度のメリット

  1. 遺言作成後の紛失、隠匿、変造対策になる。
  2. 相続人が遺言の存在を把握できずに相続手続きを終えてしまうようなケースの予防になる
  3. 法務局に本人が出頭し、未開封の遺言を提出して手続きを行うため、遺言が本人の意思
      に基づいて作成されたものであり、かつ、変造、偽造の無いものである信頼性が高まる。
  4. 家庭裁判所での検認手続きが不要になる

詳細は法務省HP「法務局における自筆証書遺言書保管制度について」をご確認ください。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

遺言書でできる行為

1.相続人の排除等

推定相続人が被相続人(親等)への虐待や重大な侮辱等の法定の排除事由が認められその相続人に遺産を渡したくない場合に当該相続人に相続権を消失させること

2.相続分の指定

法定相続分とは異なった割合で相続分を定め、またはこれを第三者に委託すること
  (例)妻に10分の1 長男に10分の7 次男に10分の2

3.遺産分割方式の指定、禁止

遺産分割を決めるのを第三者に委託したり、相続開始の時から5年を超えない期間遺産分割を禁ずること

4.特定遺贈等

相続人や相続人でない第三者(例えば、お世話になった人や団体)に特定の財産を指定して遺贈すること

5.認知

愛人との間に生まれた子の認知をすること

6.後見人の指定

子が未成年で親権者一人しかいない場合、親権者は遺言で未成年後見人を指定すること

7.遺言執行者の指定

遺産相続のために必要となる手続きを行う遺言執行者を指定すること

相続について数多く対応していると次のようなことがありました。

  1. 自筆証書遺言があり家庭裁判所で検認手続き(検認は遺言書の有効・無効の判断はしません)を行ったが、遺言内容が法的要件を満たしておらず(手が不自由で知人が代筆・日付の記載がない・押印がない・夫婦共同の遺言で配偶者が記載)遺言が使えずに遺産分割協議での分割になった。・・・かなりのケースがあります
  2. 自筆証書について相続人の一人が筆跡鑑定人をつれてきて確認を行ったり、遺言者の意思ではなく無理やり書かされたともめた。
  3. 遺言書の作成時期には遺言者は意思能力がないので遺言無効の裁判をおこされた。
  4. 子が親の遺言書の作成を希望したが親が認知症で意思能力がない状態のため遺言書を書くことができなかった。
  5. 遺言書がない状態で相続が発生して相続人の一人と連絡がつかず(戸籍の附表には外国の国名のみ記載)その連絡が大変であった。
  6. 遺言書はあったが他の相続人から遺留分の減殺請求がされた。

(注)遺留分とは、民法によって兄弟姉妹(甥・姪)以外の法定相続人に保障された相続財産の最低限遺産を取得できる権利をいいます。

 意思能力がないと遺言書は作成できませんので作成するお気持ちがあるのであれば早いうちに作成をしましょう。また自筆証書遺言は、財産目録についての緩和や新たな保管制度ができましたが要件を満たしていないとせっかくの遺言書が無効になりますので確認をしっかり行うことが大切です。

 お元気なうちに、財産一覧(財産・債務)の作成や相続発生時の相続税を試算、遺言等を含めた生前対策が大切になりますので何かありましたらお気軽にご相談ください。

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