健忘症

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 それは突然やってきた異変でした。3月15日の未明のことです。直前の数時間の記憶が、ほぼなくなってしまったのです。

 3月15日というと確定申告期限です。なんと私は、そんな重要な日にゴルフの予定を入れていたのです。今年は、2月中に確定申告業務をすべて完了させることを事務所の目標としていたため、商店会のゴルフコンペのお誘いに軽く応じてしまっていたのです。

 3月14日は、帰宅後にやりかけの仕事をして就寝、翌朝5時起床。そんなイメージでいました。ところが、その自宅での仕事の途中からの記憶がまったくないのです。24:00に社員あてにメールを送った形跡がありますので、仕事をしていたことは確かです。

 ここから先は3月15日午前1時前後の会話です。私の記憶にはないので、家族から聞いた話です。

家内:「今日はゴルフでしょ。まだ寝なくていいんですか?」

私 :「ゴルフの予定なんて入ってないよ」

家内:「商店会のゴルフコンペですよ」

私 :「今日は何日だったっけ?」

家内:「3月15日です」

私 :「確定申告期限じゃないか。そんな日にゴルフなんて入れるわけがないだろ」

数分後、

私 :「ところで今日は何日だったっけ?」

家内:「3月15日です」

私 :「確定申告期限じゃないか」

 この会話を数分ごとに延々と繰り返したそうです。つい先日の娘の成人式も、自分が参加した東京マラソンについても思い出せなかったようです。

 そのやり取りを見ていた娘は涙が止まらず、家内は痴呆の夫の介護を覚悟したと言います。無理もありません。

 その後、夜中3時に近くの都立病院に行き、救急で診察と頭部MRA検査を受けました。脳神経科の先生は、「大丈夫です。24時間以内に元に戻ります」と断言してくれました。『一過性全健忘』という症状で、原因は分からないのですが、直近の記憶がなくなるというものです。再発の可能性は極めて低いとのことでホッとしています。

 幸い、病気ともいえない症状だったので、精神的にはリフレッシュされた気分です。今となれば笑えるアクシデントでしたが、もしこれが他の病気であったとしたら、笑い話では済まなかったでしょう。いや、むしろのっぴきならぬ病気にかかる確率の方が高いのです。

 そう考えると、人生に対する考え方も多少変わります。いつ何時、何が起こるか分かりません。家族はもちろん会社、お客様、社会に対しても備えが必要です。そして後悔しない生き方をしなくてはいけないと思いました。

 人生の後半戦は、健康に気遣いながら、へこたれず、前向きに精一杯生きていこうと改めて心に誓いました。