銀行を辞め税理士へ

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 大学を卒業して初めて勤めたのは出身地山梨の地方銀行です。税理士になるために25歳で退職したのですが、上司や先輩にも恵まれ銀行の水が合わないと思ったことは一度もありませんでした。

 そういえば銀行在職中、知人に連れられて行ったお寺のお上人は、私を見るなり「あなたは35歳になったら、朝起きると銀行に行くのが辛くなります」と占いました。私は銀行を辞めたいなどと一言も言っていないのに、銀行にいたら苦しむことになると言うのです。

「では、どんな職業が向いていますか」と聞くと、「あなたには一級建築士か税理士しかありません」と来ました。本当にたまたまですが、その時の私は既に通信講座で税理士の勉強を始めていたのです。

「私は税理士の国家試験が受かるでしょうか」には、「そればかりは占いでは分かりません」と返ってきたものの私には充分でした。周囲では転職に賛成する人は少なかったのですが、背中を押された思いでした。

退職に一番反対したのは両親です。私が中学生の時に税理士という仕事を勧めた父でしたが、銀行を辞めることには最後まで理解してくれませんでした。息子が県下一の企業の社員であることに安心しきっていた両親です。最後は「俺、辞めたから」、父には電話一本の報告だけでした。

 銀行を辞めたときにいくらかあった蓄えも、稼ぎのない生活では瞬く間に消えてしまうことを身を持って知りました。反対を押し切って勝手に辞めたのですから両親には絶対に泣きつくことはできません。

 もっとも今になって思うとそれもありがたかったのです。反対されればされるほど、「なにクソ」って気になるものです。受験仲間に税理士の息子は大勢いましたが、親の願いと支援で受験するとなかなか受からないケースは山ほど見てきました。優しくすることは案外本人のためにならないものです。

 今は亡き父が現在の私の年齢(52歳)の時、自分勝手な息子が銀行を辞めてプー太郎をしていました。当時は、親なのにどうして理解してくれないんだと腹を立てたものですが、今になると、親の気持ち子知らずというものです。わが子を思うと、当時の父の気持ちが痛いほど分かるようになってきました。