おとなの学校

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 わたしは常々、「会社はおとなの学校」だと言っております。20歳前後で世の中に出た人が、ビジネスマナーはもちろん、大人としての常識を身につけているかというと、それは無理というものです。誰もが学校や家庭で一定の社会常識を教えられてきたはずですが、社会に出たらそのままでは通用しません。

 電話の出方や靴の脱ぎ履きにしても家庭と会社では全く違います。また、名刺交換など社会に出るまで誰も経験したことがないのが普通ですから、そんなのは出来なくて当然です。

 そして、さらに大切なことは表面的な立ち居振る舞いではなくて、何のために仕事をしているのか、誰のために仕事をしているのか、という根本的な職業観ではないでしょうか。人生観とか職業観といった基本的な考え方は生きる上で最も重要なことではありますが、学校ではなかなか教えてもらえません。教えられる人が少ないのだと思います。

 ですから、最初に入社した会社の経営者や上司の責任は重大です。はじめに間違った考え方に触れ感化されると、その人の長い人生では大変なマイナスとなってしまいます。ひよこは、はじめに見たモノを親だと思ってしまうのです。

 人は報酬のために働くと言います。しかし、その報酬は単なるお金とは限りません。むしろ、お金のために働くなんて人は少ないものです。健全な人でしたら、遣り甲斐のある仕事をすることそのものも報酬ですし、技術や知識を磨いて職業人として成長できることも報酬です。また、人として成長できるのも立派な報酬ではないでしょうか。ですからわたしは会社を「おとなの学校」と比喩するのです。

 明治、大正の政治家の後藤新平は事業について『財を残すは下、事業を残すは中、人を残すが上』と言いました。儲けばかり追求しているようでは経営者としては失格だと言うのです。さらに『されど、財なくんば事業保ちがたく、事業なくんば人育ちがたし』と続けています。人を残すためにも事業は必要なのです。