独立心

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 中小企業の社員で、はじめからその会社に入社を希望して入ってくる人はほとんどいません。特に新卒社員の場合でしたらなおのことです。わたしも学生時代の就職活動で中小企業に勤めたいと思ったことは一度もありませんでした。それは大石会計事務所に勤める社員にしても同じはずです。

 多摩地区にある小さな事務所を知っている大学生は誰もいません。こんな就職環境のなか希望の会社から内定をもらうことができずに挫折を味わい、または一度は勤めた会社で満たされることなく過ごし、そんなときたまたま巡り合えたのが大石会計事務所だっただけなのです。中小企業の社員は多かれ少なかれ似たような状況ではないでしょうか。

 知名度がない、実績がない、安定感がない、安心がない、夢がない、待遇が悪い、福利厚生が充実していない、設備装備率が低い、休みが少ない、先輩後輩が少ない……中小企業の劣っている点を数え上げていったらキリがありません。

 しかし、反対にやる気のある人がいい会社や経営者、上司に出会うことが出来たら、中小企業ほど面白いところはありません。規模が小さい分一人ひとりの存在感は際立ちます。安定感には欠けるものの将来の可能性があります。そしてなにより、独立心のある人でしたら起業のための修行にはうってつけです。

 わたし自身は、新卒で就職した地方銀行を25歳で退職し、その後は会計事務所を3年経験して29歳のときに税理士として起業しました。銀行を退職した時点で、わたしの10年後の目標は独立開業しかありませんでした。それは夢とか希望とかではなく、当たり前過ぎて当時は意識すらしていなかったように思います。

 今の社員を見ていますと、本当にいい社員に恵まれたと心から思えるのですが、何かが少し足りない気がしています。仕事振りは真面目で一所懸命なのですが、独立して自分の城を築き上げようという意気込みが感じられないからなのかもしれません。はじめは誰もが似た夢を持ってこの世界に飛び込んできたはずなのに忘れてしまっているようです。

 みなさまの会社にも似たような症状はありませんか。社員が不満足な組織では優秀な人材が最大限の力を発揮できませんが、和をもって貴しと為す的な仲良し組織では現状維持が精一杯でいずれ衰退してしまいます。時には経営者は、静かな池に小石を放り込んで波紋を起こす必要もあるのではないでしょうか。