「どんな業種が儲かっていますか」……わたしたち会計人は多くの業種との関わりがありますからこんな質問をよく受けます。残念ですが、昨今は業種で儲かるほど恵まれた業界は見当たらなくなりました。
そんな質問をしてくる方の多くは、流行に敏感なことが商売の成功要因だと思っている節があります。確かに風を読むことは必要ですし、市場に合った商品を取り扱うのはとても大切なことです。
しかし現実には、大ヒット商品を持っている中小企業などあまりありません。反対に、品揃えで特に差別化が出来ているわけでもないのに大繁盛してしまうお店もあるのです。どこに行っても同じような商品しかないコンビニにしても儲かるお店とそうでないお店が出てくるのはどうしてなのでしょうか。
企業経営の根幹には業種や時代とは関係なく、つまりどんな会社にも共通した原理原則があります。例えば、社員を大切にする、お客様の立場で考える、高い倫理性がある……これらは業種業界に関係ありません。いつの時代でも大切にしていかなくてはならないことです。これらは目に見える形で表れているわけではありませんが、当事者以上にお客様は敏感に感じ取っているもので、多くの長続きしている会社の共通項でもあるのです。
こんなに厳しく流れの早い時代には、原理原則などと悠長なことなど言っておられず、短絡的に即効性を求めたい気持ちも分からないではありません。しかし反対にこんな時代だからこそ、商品力や技術力は普通でも実力以上に繁盛している会社から学んでもらいたいものです。決して派手ではないそんな会社にこそ経営の原理原則があるものです。
松尾芭蕉の言葉として「不易流行」という言葉が伝えられています。不易とは永遠に変わらない本質であり、流行とは新しさを追求して変わることを意味しています。俳句では五七五という17音の短い言葉と季語の存在といったいくつかの不変の法則がある一方で、世界一短い詩形であるがため絶えず新しい句材や表現を求めないと陳腐な句しか生まれないというものです。
この「不易」と「流行」は対立したものではなく、真に流行を求むれば不易を生じ、真に不易に徹すればそのまま流行を生ずるもので、根本はひとつのものだと説いています。
企業の究極の目的は永続ですから、目先の価値観にとらわれ短絡的に実用的なものばかりを求めてはいけません。昨今は「不易」より「流行」が重視される世の中ではありますが、しっかり腰を落ちつけた「不易」を重視した経営を中小企業に広めていきたいものです。それがない会社は絶対に長続きしないのですから。