いまでは何気なくしている外食ですが、わたしが子どものころ、外食とは日常の出来事ではありませんでした。少なくともわが家では貴重なイベントでしたから、父に連れて行ってもらった近所の食堂は幼きころのいい思い出です。
いまから40年以上も前、ファミレスが世の中に登場する以前のことです。当時の食堂は食べ物を提供することそのものに意味があったので、いまで言うようなサービス業といった認識はありませんでした。そこそこ美味しいお料理を作って提供するだけでよかったのです。お客様もそれ以上のことを望むような時代でもありませんでした。
どんな業界も、成長期においては本来の基本業務の提供だけで市場に受け入れられるものです。飲食店でしたらお料理の提供、税理士でしたら税務相談や申告書の作成です。基本業務を行ってさえいれば適当に売れてしまうのです。
しかし業界が成熟してくると、基本業務が多少秀でただけでは売れなくなってしまいます。要するに成熟した業界では基本業務だけでの差別化は難しいのです。飲食店でしたら美味しいというだけではお客様を呼ぶことが難しくなるのです。本当に味だけで勝負できるお店は100軒中に何軒あるでしょうか。
お客様の心に響かせるには、味のほかにもうひとつなにかが必要になります。それは店員の質、サービス、素材、ボリューム、立地、広さ、歴史、空気感……場合によってはこれらの方が料理以上にお客様の印象に残るものです。
反対に、お客様の消費意欲をぶち壊してしまうのは店員の対応のまずさや雰囲気などです。お客様は美味しくないから行かなくなるのではなく、気分が悪いから行かなくなるのです。
これは我々税理士業界にしても同じことが言えます。かつて昭和の時代は、繁忙期になると看板を掲げるだけで行列ができたという話も聞いたことがあります。いまはもう昔、古き良き時代のはなしです。
いまでは税理士資格を持っているだけでは厳しい時代になりました。しかし、英語力があるとか特定の業界に強いといったプラスαがあると話は別です。格段に競争力が増すのです。英語が喋れるだけの人でしたら世の中にたくさんいますが、それが税理士だったとしたら、途端に競争力がついてしまうものですから可能性は大いに広がります。要するに本業だけで一本を取るのではなくて、本業と何かとの合わせ技で一本取るというのが現実的な差別化の方法なのです。
知識豊富な弁護士、腕のいい歯医者、美味しい飲食店……もちろんそうあるべきですし、そこに向けて努力すべきです。しかし、基本業務の水準と売り上げとは比例しないのです。誰よりも商品知識のある自動車セールスマンが一流セールスマンとは限らないのです。