みなさまは、『仙台四郎』という名前を聞いたことがありますか。招き猫のように、お店のレジの横に置いてある写真や置物を見たことがある方もいるとは思いますが、商売繁盛の神様のことです。
仙台四郎は本名を芳賀四郎といい、明治時代に仙台に実在した人物です。生家は裕福でしたが、子供のころ広瀬川に落ちて生死の境をさまよったことが原因で、知的障害を負ったため「四郎馬鹿(しろばか)」と呼ばれていたそうです。人に危害をなすこともなく、いつもニコニコと笑っていたといいます。
この四郎さんは、仙台の街を徘徊しながらフラリとお店に立ち寄っては、その辺に立てかけてある箒をもってお店の周りを掃いてくれたり、勝手に厨房に入りご飯を食べていったそうです。
やがて、四郎さんが立ち寄ったお店は繁盛するようになったことから、四郎さんは『福の神』と呼ばれるようになり、どこのお店でもタダでもてなされたということです。
「四郎馬鹿には不思議な力がある」との噂を聞き、わざと店先に箒を置いているような下心のあるお店には寄らずに、純粋な心で良い人、悪い人を見分け、良い人のお店だけに立ち寄ったのだそうです。四郎さんは、直感的に自分を心から歓迎してくれるお店と、そうでないお店を見分けていたのです。
それでは、四郎さんを大切にしたお店はどうして繁盛したのでしょうか。きっと四郎さんは、お客様の象徴だったのに違いありません。お店を訪ねてきたすべての人を分け隔てなく心から歓迎する、そんな商人こそが繁盛することを教えてくれているのではないでしょうか。
お店には、お客様だけではなく、仕入業者さん、郵便屋さん、道を尋ねる人、時には借金取りも来るかもしれません。しかし、お金を直接落としてくれるお客様だけを快くお迎えして、業者さんなどは冷たく裏口に回すといった経営観をもった経営者は少なくありません。
商売は、効率性の追求だけでは成り立ちません。飾り立てられた表面だけを見て来られるお客様も一部にはいますが、多くのお客様は、その奥に込められた真心を無意識に感じてお店に来てくださるのです。いつ四郎さんが来ても、気持ちよく迎え入れられる空気感のあるお店に、お客様は引き寄せられるのです。くれぐれも、四郎さんを追い払ってしまうことのないように。