「A社の売り上げが先月から3分の1に激減しました」、社員からの突然の報告にわたしは「またか」の思いになりました。A社は特定の大口得意先に依存した会社だったのでこれは想定内の出来事でした。わたしも、かねてから新規得意先の拡大を進言していましたから、A社にとってもけっして青天の霹靂ではありません。
「注文が半減した」、「厳しい値引き要求を突きつけられた」、「支払条件を変更された」、これらは下請け業者からいつも聞かされる泣き言です。A社のケースではこの要求が大口得意先から出てきたのですからたまりません。A社に限らず、売り上げがそれだけ減っては事業の存続そのものが厳しくなります。
下請けを専門とする業者であっても強みとする何かがあればいいのですが、A社の請けていた仕事は他社でも代替が可能な仕事ばかりでした。このように、特に強みもない一方的な下請け構造が一番危ういのです。下手をすると元請けの一方的な言いなりになるしかありません。
大口得意先は中小企業にとっては大切なお客様です。しかし経営の安定化を目指すのでしたら、対等とはいわないまでも当社が自立した交渉力を持った関係にならなくてはいけません。つまり特定の元請けに極度に依存しないような強みと独自の営業力が必要なのです。
ただし、強みといっても、製品力や技術力だけが強みではありません。そんな強みがないのが普通の中小企業なのです。では、あなたの会社には納期や品質といった信頼の強みはないでしょうか。提案力や企画力といったソフト面での強みはないでしょうか。社員の勤続年数が長いといった安定性の強みはないでしょうか。
特定の大口顧客に頭を下げて受注を増やしてもらうことは、営業としては正解かも知れませんが、それが会社の成長かと言うと少し疑問です。たくさん注文をくれる会社はありがたいのですが、それだけでは安心感がありません。
大口顧客が経営の安定に寄与していると思っているのは経営者の怠慢に他なりません。特定顧客のシェアは大きくても40%以下が望ましいのです。特定顧客の機嫌を損ねただけで当社の存続の危機となるようでは困ります。当社独自の営業によって、一刻も早く元請けの気分や機嫌に左右されない対等な交渉が行える関係を作っていかねばなりません。
現在おかれた環境が住みやすいほど、変化を避け、その地に安住したい気持ちになることは理解できます。しかし、あなたの会社がA社の立場にならないと、誰が断言できるでしょうか。