掃除が趣味なんて人が時々いますが、あなたの綺麗度はいかがでしょうか。小学校6年生になるわが家の息子も掃除が好きで暇さえあれば自分の部屋の掃除をしています。

　しかし、この掃除が会社の場合はどうでしょうか。社内掃除が趣味なんて奇特な人には、いまだかつて出会ったことがありません。聞いたことはありませんが、わが息子も学校での掃除はたぶん好きではないと思います。誰だって他人様の所有物の掃除なんて好きではないのでしょうから。

　会社における掃除については、ずいぶん前からイエローハットの鍵山社長やコンサルの故一倉定氏の門下生がその効用を唱えていますし、顧客満足度日本一といわれる某カーディーラーも地域清掃を徹底して行なっています。どうしても不良品率が下がらない工場が、徹底した工場内清掃をすることで大きく改善したという話も感覚的には頷けます。

　わたしも1〜2年前から掃除のことは多少気になっていましたが、社内掃除は社員に任せたままでした。しかし気になったままでいるのもストレスですから、とにかく自分自身でやってみることにしました。掃除箇所は男子トイレです。

　専用の掃除用バケツと亀の子ダワシを買ってきて、便器の中に素手を突っ込んでタワシでごしごしやるのです。便器が終わったら床を雑巾掛けして、壁と洗面台を拭いて完了です。初日は少し時間がかかりましたが、いまでは20分前後で終わりますからたいした作業ではありません。

　正直なところ、初日は少し抵抗感がありました。一ヶ月以上経った今ではすっかり慣れ、四つん這いになっての雑巾掛けも平気です。それで、わたし自身がどのように変わったかというと、正直言ってまだ分かりません。

　それでもって社内の反応なのですが、これがまた面白いのです。わたしが毎日トイレ掃除しているのに、誰からも何の反応もありません。反応を求めて始めたわけではありませんからいいのですが、たかだか十数人の会社とはいえ社長がトイレ掃除しているのに、社員の誰一人として反応してこないのには少し違和感を覚えてしまいます。

　掃除は社員の出勤前にはだいたい終わっているのですが、一部の社員は間違いなく知っていますから噂にならないはずがありません。きっとその話題に触れることは勇気のいることなのでしょう。

　女子社員には、わたしのトイレ掃除について最初にコメントしてきた男子社員にはその勇気を称えて10万円の賞金を差し上げると裏で宣言してありました。ひと月ほどしてＴ君が掃除しているわたしに気付いて「なっ、なにをしているんですか。自分がやります」と言ってきました。　

　後で分かったのですがT君は、ひと月間わたしがトイレ掃除をしているのに気付いていなかったらしいのです。他の社員はほぼ全員知っていたのですからマヌケな話です。T君にとっては、たったの一言で思いもかけないご褒美となりましたが、わたしはなによりＴ君の勇気を称えたいと思います。T君が大きくリーダーに近付いた出来事でした。