経営者なら誰もが売上や利益を増やしたいとか、借金を減らしたいといった願望を持っています。しかし、なんとなしに願ってはいるものの、将来のありたい姿を具体的にイメージできているかというと、案外そうでもないのです。一度、わが社の将来の具体的なイメージを真剣に考えてみてはいかがでしょうか。
中小企業の社員の多くは、生活の向上や才能の発揮という欲求がある一方で、自分の会社に絶対的な安心感を持つことが出来ません。社長が会社の未来像を示すことなく、社員が会社とともに明るい未来を考えることは不可能というものです。社員に安心感を与えるためにも、船長である社長はその航海の行き先と寄港地ぐらいは社員に明示する責任があります。
5年後の当社は、顧客にどのようなサービスを提供しているのか。社会にどのように貢献しているのか。社員数や年商はどれくらいあるのか。経営者は将来のありたい会社の姿を社員に示すのです。経営者が示す方向性こそがビジョンです。優れた経営者は必ず優れたビジョンを持っています。
ハッキリ言って5年後のことなど実際は誰にも分かりません。来月のことさえ確信はできないのですから。ましてや当社のことだけではなく、景気のこと、業界のこと、新技術のこと等々、世の中は予測が出来ないことばかりです。だからといって、ありたい会社の姿を社員に示さないようでは経営放棄と言われてしまいます。
会社を変革させる戦術がないから大きな目標を立てられないと思っている経営者は少なくありません。しかし、戦術を持っていないことは問題ではないのです。やり方は分からなくても目標を設定してしまうことこそが大切なのです。
先日あるセミナーで聞いたのですが、何かの問題意識があると脳には空白ができて、その空白を埋めるために意識だけではなく無意識までもが協力してくれるそうです。つまり、目標を設定してしまえばその達成のための方法論がいまは分からなくても、やがては見つけ出すために潜在意識までが働くということです。
人類は、はじめから月に行く方法論が分かっていたから月に行けたのではありません。方法論は分からなくとも、まず月に行くことを決めたからこそ月に行けたのです。
「社長は何をしたらいいのか」を見つけ出す最良の方法は、経営計画を自ら立てることである。…… 故 一倉定氏