欲のない人

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 あなたの身近な経営者で、事業的に成功している人を思い浮かべてください。どの方にも強い事業欲を感じるのではないでしょうか。強欲と言うと聞こえはよくありませんが、なにごとにつけ欲求の強さがそのまま成功の度合いになっていることが多いようです。

 「わたしは欲がないから」……こともあろうに経営者からこんなセリフを聞くことがありますが、ガッカリしてしまいます。わたしはかつて事業が順回転している経営者からこのセリフを聞いたことはただの一度もありません。

 この世知辛い世の中で清貧を貫き、決して人を羨んだり嘆いたりすることなく欲のない生き方をしている人がいたなら、わたしもそんな素敵な生き方を否定はしません。しかし、一般に「欲がない」という人は、単に自己に厳しさがなく自分自身に甘いことを「欲がない」の一言で片付けている場合が少なくない気がします。

 もしかしたら「いい人に見られたい」という小さな虚栄心がそんなセリフを言わせているのかもしれません。しかしどちらにしても、欲がないと言うのなら本当に徹底した欲のない生き方をしてもらいたいものです。

 財欲や名誉欲が人生を狂わせてしまう原因となることも確かにありますが、欲はエネルギーの源ですから、勉強でも、スポーツでも、そしてビジネスにおいても欲があるからこそひたすら前向きの努力が出来るのではないでしょうか。わたしは欲のないことが素晴らしいとか尊いとか思う気にはなれません。また欲も好奇心もない人とは一緒に仕事をする気にもなれません。

 マズローの欲求5段階説でも言われているように、健全な人には健全な欲求があり低次の欲求が満たされると次第に高次の欲求が生まれてくるのです。欲がないことが高い水準における積極的な無欲でしたらともかく、それが欲求水準の低いがゆえのことだとしたなら困ってしまいます。そんな人が経営する、夢のない会社で働く社員はお気の毒としか言いようがありませんし、そんな会社が発展していくなど到底望めることではないでしょう。

 マズローが言うところの最上位の「自己実現の欲求」になると、精神的な昇華すなわち無欲の世界に到達するのだと思いますが、その前段階においては自分を中心においた欲求はむしろ健全と言えるのです。成功の階段を上ることによって、自分の欲を超えた社会に対する使命感や社会貢献といった積極的無欲の世界になるのではないでしょうか。

 「欲」は大切なモノですから、子供に「欲」をもつなと教えるわけにはいきません。それでは「意欲」を持つなと言っているのと一緒ですから。もちろん理性や我慢は必要なのですが、自分の感情や気持ちを抑えることがなにより優先されるような子育ては、いい教育だとはわたしには思えません。