事業承継

LINEで送る

 事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことです。いま多くの中小企業者が承継の問題を抱えています。自社株の相続や贈与といった財産承継以前に、経営の承継そのものが問題になる事例が増えています。

 中小企業の場合、従来から親族内承継が主流ですが、最近では社内承継やM&Aなど親族外承継が半数を占めると言われています。

 原則的な親族間承継であるご子息への承継について、いくつかの注意点があります。

 一つ目は、ご子息を新卒で自社に入社させてはならないということです。父親には創業者の苦労があった筈です。ご子息は同じ経験はできないので、問答無用に厳しい環境にさらされる経験が必要です。

 理不尽なことが多いのが世の中です。嫌な上司や無理難題を押し付けるお客様など、訳の分からない人たちとの対峙はいい経験になります。父親に並び、さらに超える存在になるため、そして何よりも社員の辛さを芯から理解できるためにもにも、他人場を経験した方がいいのです。

 二つ目は、ご子息を兄弟で自社に入社させないことです。会社が順回転している間はいいのですが、一旦緩急あれば一族全体で苦しむことになります。もしもご子息が同じ職種に就くとしたら、別会社にするのがいいのです。非常時に共倒れにならず、お互いが助け合える関係でありたいものです。

 三つめは、会社の株をご子息が分け合わないことです。基本はご子息内の一人だけが引き継ぐのが正解です。

 兄弟関係がどんなに良好でも、お互いが結婚して他人が関わってくると少しややこしくなります。さらに次の世代は従兄弟の関係になり、それぞれに配偶者がついたらほぼ他人同士の関係です。これで株式を持ち合ったら揉めるのは日の目を見るより明らかです。

 最後に、事業を引き継いだら、しばらくの間は父親の経営を否定するような大幅な改革をしないことです。

 長年会社に在籍する社員にとって、先代社長の方針がスタンダードです。会社の文化は先代社長の人生観が反映されているので急激な舵取りは危険行為となります。

 どれも当たり前のことばかりですが、現実に上記のような事例の中で悩まれている社長は少なくありません。事業承継には早目の対策が大切ですね。

『父在(いま)せばその志を観、父没すればその行いを観る。三年父の道を改むる無くんば孝と謂うべし』……父が生きている時にはその気持ちを察して、それに添うように努め、父が亡くなってからはその行われた跡を見て、これを継承するのがよい。父親の死後3年間、父のしきたりを変えないことは真の孝子と言えるでしょう。(論語:学而第一)